バスはかなりの田舎を走っていた。午後ももう遅い時間になり 僕たちは内心焦っていた。このバスで行けばよいと土地の人にいわれて乗ったのだが、進めども進めども目的地には着かない。だんだんその言われた言葉さえ理解できていたのか心配になった。僕たちは初めて訪れたオランダであまり聞いたことのない美術館を探していたのだ。
先日テレビ欄で クレーラーミュラー美術館の番組を見つけ 30年前のT君との旅行を思い出した。森の中の小さな美術館でゴッホのコレクションで有名だが、当時はまだまだマイナー感はあったと思う。閉館ぎりぎりにたどり着き、もう入れないと言われだが強引に入った思い出がある。当然中は僕たちだけで、小さな部屋に どれもこれも有名な作品ばかりががさりげなく飾られていた。
その作品たちは、その旅の中で 最も鮮烈に心に残る絵たちだった。
ゴッホの骨太な造形力と、一タッチ一タッチが彼の心と直接繋がっているような情感表現が 気の遠くなるような天才のスケールを感じさせた。
このコレクションはゴッホの死後たった20年後に造られたそうだ。クレーラーミュラー婦人がゴッホの絵をこよなく愛したのだ。『こんな感じ方があるんだ!』と言って感動していたそうだ。ゴッホの絵は本当に孤独を癒してくれる。
たった7年ですべての絵を描き、死んでいったゴッホは20年を経て復活したと言えるだろうが、もし生きていれば 57歳、クレーラーミュラー婦人とも出会えたのに。
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