山尾三省の息子に書いた詩を読む。
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[太郎に与える詩]
十三歳になった太郎
やがてはっきりと私のものでなくなっていくお前に
父親の私はひとつの歌を与える
この詩はやがてお前の人生を指し示す秘密の力となるであろう
父は常に貧しいものであったが
その貧しさには黄金色の誇りがあった
お前の住む家は 部落で一番みすぼらしく
屋根は破れ 雨漏りがし 時々 母はそのために泣いた
お前の住む家には 車もなく 電話もなく
カラーテレビもなく それどころかしばしばお金もなかった
時々 母はそのために苦労した
林業で暮らすこの部落でも
すべての家が車を持ち すべての家に電話か有線電話があり
カラーテレビが備わっている時代だった
武田武士の流れを汲む伝統に住んでいる部落の家々は
門構えもどっしりとし 人が住むにふさわしい格式と品位を持ち 静に落ち着いて
春には花々に埋まるようになり
夏には深い緑に沈むように
秋には栗や柿の実がしっかりと実り
冬には柚子の実の黄金色に雪が降った
父はお前が小学一年生のときに よそ者として流れ者として
廃屋になった一軒家を借りて この部落に入ってきた
東隣りは 真光禅院という大きなお寺だった
西隣りは 五日市憲法という土民自治のためのめずらしい古書が発見されたお蔵だった
父は廃屋に手を加えた
父は喜ばしげに屋根をなおし 腐った畳を入れ替え 破れた戸を修理した
けれども いくら手を加えてもその家は世間の家と同じような家にはならなかった
何故かというと
家というものは 雨露がしのげ 暑さ寒さがしのげるだけのものでよい という父の思想と
母の一歩譲った同意がそこにあったからだ
部落の人たちは そんな家に満足して住んでいる私たちを見て 笑っていた
父にはその笑いがまぶしかった
だが子供のお前には その笑いは棘だっただろう
お前がブルージーンズを嫌って 黒のサージの学生ズボンで学校に行くと言い始めた時
お前が母の手で頭を刈られるのを嫌い 町の床屋に行きたいと言い始めた時
父は お前の心に刺さった棘をのぞき見た
<中略>
父の手は だから
お前の心に突き刺さった棘を抜いてあげることが出来ぬほど弱いものではない
だが その棘と正しく戦うことは お前の人生に課せられた最初の手強い門なのだ
<中略>
十三歳になった太郎
やがてはっきりと私のものではなくなっていくお前に
父親の私はひとつの歌を与える
お前の若い胸に突き刺さった棘は お前自身の力で抜き取れと
父は喜ばしげに 決意をこめてうたうのだ
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高校のころ東京に憧れ そして挫折して故郷に帰り そんな中で何かこの効率中心主義の社会に異議を感じている還暦男のこの私は この詩に考えさせられる。
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